ゲーム研究をすると優れたゲームが作れるようになるか?

 シリアスゲームジャパンで開催中のサイバー勉強会のテキストであるゲーム研究書「Half-Real: Video Games Between Real Rules and Fictional Worlds」の著者、Jesper Juul氏が最近手がけたゲーム、「High Seas – The Family Fortune」がリリースされている(プレスリリース)。
 このゲームは、テトリスやぷよぷよのような落ち物パズルゲーム、落ちゲーと呼ばれるジャンルのゲームで、カジュアルゲームパブリッシャーのGame Trustから発売されている。上記のゲーム紹介ページから無料デモ版がダウンロードできるので試してみてほしい。
 テトリス以来、さまざまな落ちゲーがリリースされていて、市場には類似のゲームはたくさんある。このゲームも見た目はビージュエルド風で、あまり目新しさはない。だがプレイしてみると、このゲームのルールがよく工夫されていて、ゲームプレイの心地よさを与えるためのさまざまなデザイン上の工夫をしていることがわかる。ゲームの面白さの基本となるメカニズム、すぐにゲームに入って楽しめるインターフェイス、心地よさを引き立たせる効果音やグラフィック、継続性を高めるための要素など、いずれも綿密なゲーム研究に裏打ちされたデザインとなって表れている。
 ゲーム研究者として知られる一方、Juul氏は研究だけでなく自らの会社Soupgamesで、10年以上もゲーム開発に取り組んでおり、数々のゲームを世に送り出している。そのため、必ずしもこのゲームの出来の良さは、ゲーム研究の知見から来るものではなく、これまでのJuul氏の経験からくるものでもあることがわかる。


 同様の例としては、Diner Dashがある。このゲームは、大作のゲーム研究書「Rules of Play: Game Design Fundamentals」の著者であるKatie SalenとEric Zimmermanのゲーム開発会社、Gamelabが開発した。このゲームは高く評価され、カジュアルゲームブームの中で多数のフォロワーを生んでいる。
 また、 数年前に数々のゲーム賞を受賞した人気ストラテジーパズルゲームのOASISを手がけたのは、Game Developers Conferenceで長年ゲームデザインワークショップを担当してきたMarc LeBlanc氏だ。彼もゲーム開発会社Mind Control Softwareの開発者の立場でゲームデザインを研究しており、Mechanics/Dynamics/Aesthetics (MDA) というフレームワークを整理して論文を出している。
 彼らが優れたゲーム開発者だから優れた研究ができるのか、優れた研究者だから優れたゲームが生み出せるのか、それはどちらとでも言える。それに当然ながらゲームを開発しなくても優れた研究者はいるし、ゲーム研究をしなくても優れた開発者もいる。それはスポーツにおいて必ずしも名選手=名監督でないのと似ているだろう。だから開発をしなくてもよい研究はできるし、研究しなくてもよいゲームは作れるだろう。
 ただ、上記の研究者/開発者たちに共通しているのは、開発と研究のサイクルをとても速く回していて、その中で優れた成果を出していることだ。優れたゲームを生み出しながら、研究的な活動によってゲーム研究分野の知識基盤を高めることにも貢献している。開発が研究のドライブとなり、また研究が開発のドライブとなり、開発と研究ともに磨きがかかる。現実的にはそのようなサイクルに身を置くこと自体がなかなか難しいのだが、実際にはこれがよい成果につながる一番の早道になのかもしれない。

ゲーム研究をすると優れたゲームが作れるようになるか?」への3件のフィードバック

  1. Juul氏情報ありがとうございました。
    丁度前回の勉強会で
    彼のゲーム定義についての議論から、
    「プレイヤーとしての視点からはどうなのか」
    「開発者としての視点からはどうなのか」
    というような疑問が出てきたところだったので
    非常にタイムリーかつ示唆的でした。
    次回話題として取り上げたいと思います。

  2. > Juul氏情報ありがとうございました。
    お役に立ったようでしたら何よりです。
    リンク辿っていってゲーム見つけて遊んでた
    だけなんですけどね。(^^

  3. あ、前回のhalf-real勉強会も同様のノリでした。
    詳しいお二人に話の流れで出てきた色んなゲームを
    教えてもらってみんなでやりつつ・・・という展開。
    原点?かもしれませんね。。。

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