Tivo導入後の視聴行動の変化

 帰国中のテレビ問題をどう解消しようかと思案した結果、録画時間の制約という根本的な問題の解決を求めてTivoを購入した。Tivoとは、いわゆるデジタルビデオレコーダー(DVR)にネット接続された番組予約システムが提供された商品で、アメリカではDVR市場を席巻している、DVR市場のipodのような商品だ。
 他のDVRデッキが普通のビデオデッキのように製品単品売りで、番組表サービスはオマケのようなものだったのに対し、Tivoは、番組予約システムを主として録画機能を補完的な扱いでサービスを構成して展開した。そのため、セールスアプローチは携帯電話のセールスのように、月額いくらのサービスを売って、ハードは販売奨励金で価格を下げて提供する形をとっている。おかげで、DVRデッキ自体は50ドルほどで買えた。最大80時間録画で、裏番組同時録画ができるデュアルチューナー搭載。


 さっそく導入してみての使用感はとてもよい。録画予約システムの方を売りにしているだけあって、番組予約はとても簡単で、操作にストレスがない。見ているチャンネルを最大30分自動録画してくれているので、その場で静止したり、巻き戻して見たりもできる。見ている途中で録画し始めても、見始めた地点まで可能な限りさかのぼって録画してくれているので、見逃す部分が少なくてすむ。シーズンパス録画という設定をすれば、同じ番組を探して勝手に録画してくれる。特番などで放送時間がずれても、変更後の時間できちんと録画してくれるらしい。たとえば、「24」をシーズンパス予約すると、Foxで放送されている最新の回だけでなく、他局のリピート放送も見つけて録画してくれる。最新版だけ録画とか、とにかくその番組は全て録画といった調整もできる。
 ユーザーの録画行動履歴を参照して、おすすめ番組を自動的に録画してくれるTivo Suggestionという機能もある。アマゾンの「この商品を買った人は、この商品も買ってます」とおすすめ商品を表示する機能に近い。ハードディスクが空いている限り勝手に録画してくれて、足りなくなれば勝手に録ったものを消しながらアップデートしてくれるらしい。最初試しに使ってみたら、学習機能があまり賢くなくて、たまたまホラー映画を録ればホラー映画ばかり勧めてくるし、ビジネストークショーを録ればこれも同じような番組ばかり勧めてくるしで、あまり使えない。勝手に録画されてもうざいので、録画機能はOffにしておいて、勧めてくれる番組一覧を参照する形でたまに利用することにした。
 Tivo導入によって、テレビ視聴行動はだいぶ変わった。まず録画設定が楽なので、今まではちょっと見たいと思っても録画設定やテープの入れ替えが面倒であきらめていた番組にも手が届くようになった。ビデオの巻き戻しやテープの管理に割いていた時間をそのまま視聴時間に回せるようになって、テレビを楽しむ時間も若干増えた。たまたま見つけた番組をちょっと録画して後で見るという行動も取りやすくなって、テレビから得られる価値が高まった。これだけ得られるものがあると、月額10ドルそこら払ったとしても十分にもとが取れて大満足だ。
 DVR市場には似たような商品が存在したにもかかわらず、Tivoだけ売れて市場を席巻してしまったのは、ひとえに使いやすさとユーザーが求めるものをサービスの形として実現できたからだろう。同じスペックのDVRがあったとして、仮に技術的に秀でていたとしても、肝心な録画が手軽にできないのでは意味がない。録画できるというハードの技術は技術でしかないのであって、ユーザーの視聴行動の中でどのような付加価値を生み出せる形でサービスに組み込まれていないと活きてこない。
 Tivoは設置時の設定から日常的な録画予約まで、ユーザーの生活に組み込まれやすい形でインターフェースや機能がデザインされている。アマゾンのユーザーレビューを見ると、他の単体売りのDVR製品はインターフェースの悪さや機能の複雑さが批判の的となっており、この点におけるユーザーの評価はTivoとは明らかに差がついている。この差がTivo一人勝ちという結果に至っている面は大きいのだろう。