弁護士のリアリティショー

 最近TVでは、リアリティショーラッシュでいろんなのをやっているが、また今週から新たにThe Law Firm (NBC系)というのが始まった。これは名前の通り、弁護士もののリアリティショーで、12人の若手弁護士が、有名弁護士のロイ・ブラックのもと、賞金25万ドル獲得とロイに有能であると認められることを目指して、毎週本物のケースで裁判で争い、ダメな人が脱落していくという形式のTV番組である。プロデューサーは「ザ・プラクティス」「シカゴホープ」「ボストンリーガル」で評判の高いデビッド・E・ケリーである。


 最初のエピソードを観た印象としては、スタイル自体にもう目新しさがなくなったせいか、そんなに激しく面白いという感じは受けなかった。裁判ものというジャンルはドラマがたくさんあって、かっこよくやっているのをさんざん観ているので、本物の弁護士とはいえ、準備したり、法廷に立っているその姿は、微妙にかっこよくなかったり、切れが悪かったりする。みんな20代後半~30代前半くらいの弁護士で、実践経験を積んでいるはずだが、まだロースクールの学生が模擬裁判をやっているような雰囲気も感じられた。本業の弁護士がこれでみっともない姿をさらして負けると、その後のキャリアにかなり影響があると思うのだが、みんな自分が負けるとは思ってないのか、自信だけはみなみなぎっている。
 本物の弁護士が参加して、リアルケースで本物の裁判所で裁判をやった結果をテレビ番組に使うなど、日本ではとても成立しないと思うが、アメリカのテレビはそれをやってしまう。テレビというメディアの社会的なステータスが違うということと、しゃべれてテレビ映えする素人がごろごろいるということで番組を作りやすいのだと思う。日本のテレビは、テレビという産業が一般から低く見られたり、文化的に素人がテレビに出ることに対する恥の意識が強いことと、素人に参加させても、しゃべれないしキャラが立たなくて間が持たない、というような違いがある。クイズ番組なんかでも、「クイズ100人に聞きました」を昼にやってたりするのをたまに見ると、同じフォーマットでも参加者の動きがぜんぜん違う。アメリカ人家族たちは、なんであんなに盛り上がれるのというくらいサービス過剰に盛り上がっていたりする。アメリカ人はイベントごとへの参加意欲やサービス精神が平均的に高いので、番組の演出も楽なんだろうなと思う。
 弁護士もののリアリティショーをやるのであれば、あとまだ手をつけられてないのは医者か教師である。医者がほんものの患者相手に治療で争うというようなのはややリスクが高いので、次はやっぱり教師のリアリティショーだろう。あるいはアーティスト、技師、大工、美容師など、このリアリティショーのフォーマットは果てしなく横展開が可能なので、おそらくこの流れでしばらくいろいろ出てくるだろう。日本でも弁護士は無理だとしても、教師ものなら可能だと思うので、ぜひどこかでやってほしいものである。大学教員のリアリティショーで、職探し中のポスドク研究者が本物の学生を相手に、毎週授業やチーム研究などに取り組んで、優勝者は好待遇のポジションと賞金を手に入れることができるとか。普通に公募はそこここでやられているのだし、そのプロセスには(出来レースじゃなくてちゃんとした公募であれば)さまざまなドラマがあって、面白いはずである。そこに少し演出を加えて、カメラで追えば、いい番組になると思う。うまくやれば選考の過程で挑戦者たちが学習して鍛えられるという効果があるし、視聴者がアカデミックな世界にテレビを通して触れることができる効果もばかにはできない。NHKでやれば「プロジェクトX」の次のヒット番組になるだろうし、フジの深夜なら、「マネーの虎」のようにゴールデンタイムへ昇格する番組となるに違いない、と思うのは私だけだろうか。自分がテレビマンだったら迷わず着手して、大学やスポンサー探しに走るのだが。

弁護士のリアリティショー」への3件のフィードバック

  1. 僕も一部見ました。
    次から次に展開される米国テレビ業界の番組開発能力
    には本当に感心します。
    ポスドク・リアリティーショー面白そうですね。
    自分も10年ほど前に映画プロデューサー・リアリティーショーを
    考えたことがあります。というか元々はゲームの企画でしたが。
    映画制作(ドラマ制作も同様か)現場には様々なドラマや予想外の
    トラブルが起きます(特に学生映画レベル
    だとたくさん)。その枷を使ってドラマを演出し、
    体験型ゲームとして成立させることはできないかと
    ゲーム・プログラマーの友人にもちかけたことが
    あります(多分今では似たような商品あるんじゃないでしょうか)。
    映画監督になりたい、という人の層の厚さ
    を当時は感じていたので。
    リアリティーショーのようなドキュメンタリーでも
    いけるかもねとその友人とは話したことを記憶して
    います。
    結局自分が忙しくなって立ち消えになったのですが。。。
    ポスドクねたは自身が出演したいくらい身近な
    テーマですが、モーガン・スパーロックの30days
    のようなスタイル(体験型ドキュメンタリー)でも
    面白いかもしれませんね。
    (30daysは、このサイトでもちょっと紹介されてますね)
    http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050719
    特に日本では大学業界は一般社会とは異なる因習や人間くさい
    力学が渦巻いている業界なので、立派に「異文化」
    として成立するように思います。

  2. Takaさん、こんにちは。
    > ポスドク・リアリティーショー面白そうですね。
    賛同してくださる方がいてうれしいです。
    > 自分も10年ほど前に映画プロデューサー・リアリティーショーを
    > 考えたことがあります。というか元々はゲームの企画でしたが。
    10年近く前、「ディレクターズカット」とかいう名前だったと思うのですが、スピルバーグの撮った素材を編集して自分の映画を作れるゲームがありました。当時やってみたいなと思っていたら、それほど話題にもならずに店頭から消えてました。コンセプトは面白かったのですが、まだコンピュータのスペックが弱い頃だったので、たぶんインターフェース的に厳しい部分もあったのだろうと思います。
    映画に限らず、プロデューサーという仕事は、自分の思い入れやこだわりを持ちながら、仕事の枠組自体を作っていく仕事である面が大きいと思うので、プロデュースを学ぶ以前に、こだわりを形にすることや、仕事の枠組を作るといった、ベースとなるマインドやスキルを育てる導入的仕掛けが必要だと思います。テレビ番組やゲームはその一つとして機能すると思います。Takaさんは映像の仕事に近いところにいらっしゃるようですので、いずれチャンスがあったらぜひリアリティショーものの企画を実現してください。
    30daysのフォーマットもいいですね。ドキュメンタリーを撮る人たちは、よくあのような素の状態を撮ることができるなと感心します。番組自体面白そうなので、次のシーズンは必ずチェックします。
    ポスドクについては、国の政策の不備を憂う暗い話ばかりが広がっていますが、リアリティショーでも何でもいいので、何か違った切り口で状況を変えていく必要があって、TV番組はその仕掛けの一つになると思います。

  3. >10年近く前、「ディレクターズカット」とかいう名前だったと思うのですが、
    ありましたね。僕が記憶していたのもこれのことです。
    僕もやる機会がないままでした。
    >映画に限らず、プロデューサーという仕事は、自分の思い入れやこだわりを持ちながら、
    >仕事の枠組自体を作っていく仕事である面が大きいと思うので、プロデュースを学ぶ以前に、
    >こだわりを形にすることや、仕事の枠組を作るといった、ベースとなるマインドやスキルを
    >育てる導入的仕掛けが必要だと思います。
    なるほど。これは非常に僕にとっては示唆的です。
    ストーリーにこの導入部分の仕掛けをうまく乗せる
    ことができれば面白いですね。
    >テレビ番組やゲームはその一つとして機能すると思います。
    >Takaさんは映像の仕事に近いところにいらっしゃるようですので、
    >いずれチャンスがあったらぜひリアリティショーものの企画を実現してください。
    是非やりたいですね。友達のテレビマンに与太話に
    混ぜて打診してみます。
    >ポスドクについては、国の政策の不備を憂う暗い話ばかりが広がっていますが、
    >リアリティショーでも何でもいいので、何か違った切り口で状況を変えていく必要があって、
    >TV番組はその仕掛けの一つになると思います。
    僕が自分の研究テーマに興味をもった
    視点と非常に似ていて感銘を受けました。
    閉塞的で後ろ向きな状況(自分の場合は医療・保健)に
    別の視点というか、ツールを導入することで変化を
    起こすことはできないか、という発想です。
    非常に共感します。

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